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人類はどこへ向かうのか

投稿日:2016年5月8日 /  記事カテゴリー:コラム

人類はどこへ向かうのか

会長 古澤 賢

世界の混迷を象徴する一つに、エネルギー問題があります。石油資源など文明の発展に欠けせないものであることは間違いないところですが、このまま人類の文明が発展することに言い知れぬ不安を感じているのは私だけでないと思います。

 
エントロピーの法則というものがあります。「文明(科学)が発展・進歩すればするほど一方では負の要素が増える」と言う法則です。これについてはシューマッハーも彼の著書「スモール・イズ・ビューティフル」で全く同じ概念のことを言っています。

 
『奇妙なことであるが、技術というものは人間が作ったものなのに、独自の法則と原理で発展していく。そしてこの法則と原理が人間を含む生物界の原理、法則と非常に違うものなのである。自然界のすべてのものには、大きさ、早さ、力に限度がある。だから、人間も一部である自然界には、均衡、調節、浄化の力が働いているのである。しかし、技術にはこれがない。というよりは、技術と専門家に支配された人間にはその力がないというべきであろう』

 
イギリス石炭公社の経済顧問であったシューマッハー≪Fritz Schumacher (1869―1947)≫は、将来のエネルギー危機をこの書で予言し、それは第一次石油危機として現実化しました。

 

また、大量消費を幸福度の指標とする現代経済学と、科学万能主義に疑問を投げかけました。彼は、石炭、石油(化石燃料)に依存する産業の今後のエネルギー危機の到来を予測し警鐘を発したのです。その変革のために、「中間技術(適正技術)」の開発と、それらの途上国発展に向けた適用の重要性を訴えています。その「中間技術」の目標とは何か。

 

シューマッハーはそのことについて、
・小さいこと・簡素なこと・安い資本でできること・非暴力的であること、と言っています。そして、「非暴力的であること」の例として、原子力をあげて、以下のように述べています。

 
『歴史上もっとも暴力的な技術、原子力(「平和的」原子核エネルギー)の意味を考えてみよう。

 

今日の核開発計画が実行されるとすれば、プルトニウムや放射性物質が至るところに存在するとき、どんな安全対策が必要になるかを考えていただきたい。これらの恐ろしい物質が環境にもれ出ることはなんとしても防がなくてはならないし、どんな場合にもコントロール下に置かなくてはならないし、また決して悪しき手- 強請者、テロリスト、政治的ならず者ないし自殺狂- に渡るようなことがあってはならない。(中略) 技術と自由の連関は明らかであり、自由の代価、あるいは少なくともその代価の一部が暴力的な技術を割けることであるのを見抜くのは困難である』

 
そう、彼はすでに予測していたのです。沢山の人が警告していたにもかかわらずそれを無視して50年が経ち、環境や資源、さまざまな問題が明らかになってきました。人間にふさわしいスピードをはるかに超えて展開された近代化、資本化、消費社会がもたらしたあまりにも大きな負の遺産…。

 
最近、米国で産出量が急増している新エネルギーの「シェールガス」を皆さんはご存じでしょう。米国では生産が急増するシェールガスが経済成長を大きく押し上げると期待されています。米エネルギー省情報局は将来的にLNGの純輸出国に転じると予測し、オバマ政権は「国産エネルギーの増強」を掲げ、開発を推進しています。この「シェールガス」に対し、元ビートルズのジョン・レノン(1940~80年)の息子で、ミュージシャンのショーン・レノンが反旗を翻した、と米国のメデイァが報じました。ジョンがニューヨーク州で購入した農地を含む環境が、ガス開発によって破壊されるとするショーンの寄稿を、8月28日付米紙ニューヨーク・タイムズが掲載したのです。“革命”とも呼ばれるシェールガスについて、「汚いエネルギーだ」「気候にもやさしくない」と酷評し、開発ブームに一石を投じています。

 
ショーン・レノンはこう言っています。
「父が亡くなったのは私が5歳の時だったが、私は当時、父が愛した土地で生活できて常に幸運だと感じていた。その土地を含む一帯が破壊の危機に瀕している。ガス会社がわれわれの裏庭に現れたとき、僕は調査が必要だと感じた…」

 
ショーンは寄稿で、父ジョンと母オノ・ヨーコとともに過ごした農場での思い出をつづり、ガス開発が環境に与える悪影響などを訴えました。

 
寄稿によりますと、数カ月前に地元の高校でガス会社による開発計画の説明会が行われました。(岩盤に亀裂を作る)水圧破砕でガスを生産し一帯にパイプラインも張り巡らせることが明らかにされ、農家を中心とする地元住民のほとんどが反対しましたが、「会社側は意に介さず、計画を実行するようだった」としています。

 
そこでショーンはシェールガスについて調査しました。その結果、「クリーンエネルギーといわれているが、ガス井戸1カ所につき、有害物質を含む1,900万リットルもの水が必要な真に汚いエネルギーだ」と指摘しました。また「生産開始から20年以内に漏れるメタンは二酸化炭素の105倍も強力な温室効果ガスだ」とし、地球温暖化への警鐘を鳴らしています。

 
さらに「この農場一帯の水の汚染が州全体の水の汚染に直結する」と記した上で、「われわれの水や生活、地球を次世代に残すため、すべての水圧破砕に反対する」と宣言しています。

 
日本でも最近、燃える氷と呼ばれている“メタンハイドレート”が注目を集めています。日本周辺では深度が1000~2000mで、なおかつ海底面から200~300m下の大深海域がメタンハイドレートの安定存在領域と考えられ、特に、最近の調査では、南海トラフすなわち四国沖から東海沖にかけてと、北海道の周辺などに多く存在することが分かっています。日本周辺のメタンハイドレートの資源量は7.4兆m3と試算されており、これは日本の天然ガス消費量約100年分に相当するそうです。原発停止で代替火力発電用のLNG輸入が急増している日本も、“救世主”として注目しています。ただ、専門家から環境への悪影響を指摘する声が高まっているほか、地震を誘発するとの研究結果も報告されています。

 

さて、シューマッハーは「スモール・イズ・ビューティフル」の中でこうも言っています。

 

『原子核エネルギーの、いわゆる無限の可能性が指摘されるのが常である。放射線を安全に処理する方法がないかぎり、核分裂エネルギーを大規模に発展させるのはほとんど自殺的である。(中略)そのような大規模の開発は、増殖炉を基礎にして初めて可能だということである。いかに経済がそれ(原子力)で繁栄するからといって、「安全性」を確保する方法もわからず、何千年、何万年の間、ありとあらゆる生物に測り知れぬ危険をもたらすような、毒性の強い物質を大量にためこんでよいというものではない。そんなことをするのは、生命そのものに対する冒涜であり、その罪は、かつて人間のおかしたどんな罪よりも数段重い。文明がそのような罪の上に成り立つと考えるのは、倫理的にも精神的にも、また形而上学的にいっても、化け物じみている』

 

シューマッハーは哲学者でもあるため、同著の中において、「仏教経済学」や「霊性と非暴力」にも注目し、開発・工業化における人間のあり方や精神についても述べています。現在の日本の状況を鑑みて、シューマッハーの警告について改めて考えさせられます。

(了)

 

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