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「渡り鳥とサイバネティクス理論」

投稿日:2014年1月6日 /  記事カテゴリー:コラム

「サイバネティクス理論」はアメリカの科学者で当時マサチューセッツ工科大学の教授だったノーバート・ウイーナー博士(Norbert Wiener:1894年11月26日―1964年3月18日)によって提唱された理論です。これは通信工学と制御工学を融合した理論であり、その後の航空宇宙産業やコンピュータテクノロジーに非常に大きな影響を及ぼしました。特にコンピュータの世界への影響は大きく、プログラミングの世界標準を確立し「CASEの父」と呼ばれているジェームズ・マーチン博士が1996年に出版した本も「cybercorp」(サイバーコープ:日本名「経営の未来」)と言って、この「サイバネティクス理論」が今後の企業経営にどれほど強く影響を与えるかを書いた予言的な本です。21世紀の今、周囲を見てみるとほとんどその通りになっているのには驚ろかされます。(※CASE:Computer Aided Software Engineering:コンピュータ支援ソフトウェア工学)

提唱者のウイーナー博士は早熟型の天才で、9歳で高等学校の授業を受け、11歳で大学に入学し、14歳でハーバード大学の大学院に入学し、なんと18歳で博士号を授与されています。そんな天才ですから性格的にはかなり変わっていたようで、師事していた当時イギリス最高の頭脳と言われたケンブリッジ大学のバートランド・ラッセル教授を度々困惑させたというエピソードもあります。
サイバネティクスに該当する日本語は「操舵」ということばにあたります。「操舵」とは船を操ること“船の舵を取る”つまり操縦することです。あらかじめ決められた目標へ直線的に向って、最適コースをとるシステムと違って、行き過ぎたり戻り過ぎたりするが目標に向って進む――これが「操舵」でありサイバネティックスです。

久里浜港から大島に向かう大島航路の船を例で説明しましょう。普通港から船を出すときは、あらかじめ進路を計って方向を定め、その方向に向って出すものと素人は考えます。しかし、船長に聞いてみると実際はそんなことはしないそうです。もちろん大島への航路図はありますが、錨を上げて出航すると、船を大島の方向に向けて30分ほど走らせるのです。そのうえで船の現在位置を測り、航路とずれがあるときは修正し、また、しばらく走らせる――これを何回か繰り返して目的の大島港に時間通りに到着させるのです。

まさにこの考え方がサイバネティクスです。目標に向う道筋において、ずれがあるときは素早くそれを察知し、自動的に方向を修正し、最終的には目標に達する――つまり、自動制御の考え方です。人間の脳には、こういうシステムが備わっており、具体的な目標が設定されると、そのシステムが作動するとされています。このサイバネティクスの原理を応用して巡航ミサイルが開発されています。

ウイーナー博士は理工系の学者として有名ですが、実は動物学の研究者でもあり、このサイバネティクス理論は渡り鳥を見て閃いたそうです。日本にも季節ごとに渡り鳥がやってきたり、春になると北の国に帰っていったりします。冬の畑で見られるツグミや、家の軒下に巣を作るツバメも渡り鳥ですが、湖や沼で見られるカモやガンもほとんどは渡り鳥です。

さて、これらの渡り鳥は種類によっては何千キロも旅をしますが、考えてみれば、その鳥が冬を過ごした日本の沼と、数千キロかなたの夏を過ごす沼を直線で結んで、その角度がほんの1度でも狂えば全く違う場所にたどり着いてしまうことになります。しかも大自然の中を飛んでいくので、天気も湿度も気圧も風向きも毎回違っているはずです。毎回違う環境条件の中で正確に目的の沼にたどり着くのはなぜなんだろう?とウイーナー博士は考えました。

そして彼は閃いたのです。「弓矢や弾丸のように最初に方向を定めて出発し、直線的に飛んでいくのではなく、途中で何度も軌道修正しながら飛んでいくのではないか」そうしたら新たな疑問が湧きました。「軌道修正はどのような情報に基づいて行っているのか?」という点です。昔の航海術は星を見ながら行ったが、鳥も星を見るのか?ならば夜飛ぶはずではないのか?曇りの日には飛べないはずではないのか?それとも山や川などの景色なのか?体内に磁石を持っていて、それで方向を知ることができるのか?そういう疑問を考察して、星や山などの周辺環境と「通信しながら制御」しているのではないか、という説をまとめ、1947年に「通信と制御」という論文を発表し、世界に衝撃を与えました。この論文の中で体系化したのが「サイバネティクス理論」です。

つまり、通信(コミュニケーション)し、結果をフィードバックすることを繰り返しながら小刻みに軌道を修正(制御)すれば、途中の気候や地形の変化などに惑わされずに目的の沼にたどり着ける、という考え方です。この「結果を伝達しその情報によって制御する」という考え方はその後はエレクトロニクスのみならず、あらゆる科学分野に応用され、心理学などのそれまで神秘的と言われてきた領域にまで科学のメスが入るきっかけにもなりました。

それはシステムを「フィードバック系」と捉えたところが画期的でした。そのフィードバック系に出入力されるものをすべて「情報」として扱えるようにしました。もうひとつ、重要な提案がありました。それはシステムの動向には必ず「パターン」で読み取れるものがあるということです。そもそもフィードバックという考え方はコップを手にとろうとして、視覚器官から筋肉装置のすべてを総動員しているとき、われわれはそのどこかで必ずフィードバックをおこしつつ、コップをつかむという行為を完了させているわけです。
フィードバックの考え方を厳密にいかして生まれたシステム技術が、サイバネティックス以降の世界中を席巻することになった、いわゆる「オートメーション」です。

また、最近注目されている「データベース・マーケティング」は顧客の属性や過去の購買傾向をデータベースに記録して区分し、それぞれの顧客に合ったサービスを提供するマーケティング手法です。さらに最近では「ビッグデータ」の活用が急速に高まって来ています。近年のブログや動画サイト、または、FacebookやTwitterといったSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の利用者の増加により、パソコンやスマートフォンなどから、文字だけでなく、音声や写真、動画などのデジタルデータがインターネット上の様々なサーバーコンピューターに蓄積されています。「ビッグデータ」は、単に大容量であるだけでなく、非定型でかつリアルタイム性が高いと言われています。

従来のデータベース管理システムでは、データを定型化して蓄積し、その後で処理分析するため、相反する性質を持つ「ビッグデータ」を扱うことは困難とされていました。しかし、近年、「ビッグデータ」を高速かつ簡単に分析できる技術が登場し、「ビッグデータ」を活用すれば、これまで予想できなかった新たなパターンやルールを発見できることが明らかとなっています。

最後にサイコ・サイバネティクスへの発展にも触れておく必要があります。これはウイーナー博士の後の世代の、アメリカの形成外科医で臨床心理学者でもあったマックスウェル・マルツが提唱したものです。彼の理論は人間の内面にも軌道修正しながら本来の自分(目的地)に近づく、あるいは取り戻す機能が備わっているのではないか、という考え方が基礎にいなっています。外科手術によって不具合を修正した患者の治療前と治療後の心理的変化を観察しながら発想したというこの理論は、ベトナム戦争の復員兵が大量に社会復帰できなくなっている問題で頭を抱えていたアメリカ政府の施策と結びついて広がったと言われています。(了)

会長 古澤 賢

「渡り鳥とサイバネティクス理論」” への1件のコメント

  1. 大変に興味のある内容でした。論理思考の研修でも、「目的に向けて粘り強く仮説・検証を繰り返すことの重要性」に触れることがありますが、サイバネティクス理論からもこのことは通じていると感じました。
    また、ビックデータについても、これまで潜在のまま、場合によっては陳腐してしまったものがどれだけあったことか。人の内面の潜在的な知識・情報をとにかく引き出し、蓄積、体系化して、あらたな法則、パターンの発見に有効活用する仕組み作りが、特にビジネスの世界でもっと必要であると感じました(データベース・マーケティングの観点からも、ナレッジマネジメントの観点からも)。

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