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【対談】人材アセスメントは「目利き」を超えられるか(第1回)

投稿日:2018年5月12日 /  記事カテゴリー:コラム

プロローグ
人材アセスメントは、「目利き」を超え(られ)るか

―クライアントのつぶやき― ・・・ 水間英光

「人物を見抜くことができる」人間は、確かに存在する(と思う)。
その信憑性に従えば、たとえば組織の人材登用に際し出された結論は有意性が高いことになる。
一般的に言って、社長は人事権者として人事登用の最終かつ最高の権限を有している。
がしかし、すべての社長が「人物を見抜くことができる」能力を有しているわけではない。
「自らの後継者に、自分より優れた人物を指名することはない(少ない)」と巷間取りざたされることも少なくない。
ちなみに「大学教授」の場合にも該当し、“直系の”弟子より、「外部に出た」研究者が優秀な実績を残す、ということもよく起こる。
加えて、上級幹部はともかく、下に下がれば下がるほど判断材料としての「情報」が十分でないことも自明である。
したがって、ある階層以下については、判断材料の質量の違いから、人事部長が代替するのはいわば組織の“知恵”のようなものである。
「権限委譲」とは「現場に近ければ近いほど“的確な”判断を下せる」という考え方に立っているといえる。
では、人事部長は「間違いない結論」を「常に」出すかといえば、そうではなかろう。
ここでは、《問題は、人が人を選ぶ、選別・評価する際に「私情・私意」あるいは「恣意」が介在するからだ》という見方が成立しうる。
だが、だから人材のアセスメントが有効なのだ、といえるほどことは単純ではないのではないか?と“ひと言”言っておこう。

観点を変えて、アメリカの大統領の例を考えてみたい。
あれだけ厳しくかつ、いくつものスクリーニングを経て選出されるにもかかわらず、再選後は、間もなくしてレームダッグ化(この表現は、最近、使い方を注意しなくてはならないという指摘がある)するケースもしばしば起きている。

アメリカ在勤が長く、「シティクラブ・オブ・ニューヨーク」から『名誉市民』の表彰を受け、国際連合の専門機関である多数国間投資保証機関(MIGA)の初代長官まで務めた方が、引退してしばらくしてニューヨークからオーストラリアのパースに居を移されたと聞いて、「どうしてですか」と尋ねる機会があった。
その時の言葉が実に印象的だった。
「(わが、深く愛する)アメリカが、あんな大統領を選ぶようになってしまって、心底失望したんです」。
アメリカ通の知性派財界人として知られる方の言葉は重い。
かくあるほど、人が人の中から人を評価して選ぶということは難しいのである。
たまたま、人材登用や人事考課の責任者になった時、「人が人を評価する(できる)のは、唯一神様だけで、神様の領域を畏れ多くも“犯している”のだ」と言い聞かせていたものだ。
「私情・私意」あるいは「恣意」を排除する方策を講じればいいのだ、と断定するほどことは簡単・単純ではないし、そもそも「情」抜きの無機的な手段・方法がすべてを解決し、納得性を担保することができるなど、「人と人とが」寄り集まっている組織で通用するはずもない。
『草枕』でいうとおり「智に働けば角が立つ。
情に棹させば流される」兎角に人の世は住みにくいのである。

これでは屁理屈をこねるだけで、隘路に落ちたまま脱出できないことになってしまう。
ケースメソッド協会が展開する人材アセスメントのキモは、10数項目からなるディメンションで、これまでの経験値に加え、リメーク、リバイスが重ねられて今日の評定ポイントが確立されたものと理解している(駄弁になるが、このプロセスはまさにケースメソッドそのものということなのだろう)。

発注側からいうと、人間を見抜く鑑識眼に代わるもので、「情」を排除しつつも無機的ではなく、庶民の“選良”を超えた選抜ができ、神様の領域を侵すことが許されるポイントはここだ、ということが知りたい。
プログラムの「提供サイド」の方でも「営業サイド」の方でも、「顧客側」に「よしわかった、費用捻出の値打ちあり」と言わせてほしいのである。
ちなみに、当方の貧弱な語学力からすると、というより辞書レベルを超えるものではないが、通常「評価」というと「値踏み」と同様、evaluation が英訳に該当すると愚考するが、(辞書では、「(財産、収入などの)評価、査定。
(税額などの)算定、が出ている) assessment が発祥の地で使われているところになにか解明のヒントがあるようにも考えたりする。

座談会 人材アセスメントは「目利き」を超えられるか

≪出 席 者≫
西山真一(司会):NPO法人日本ケースメソッド協会理事
古澤 賢    :NPO法人日本ケースメソッド協会会長
水間英光    :元学校法人早稲田大学副総長
長島研二    :元岡谷鋼機㈱人事総務部教育研修担当
廣瀬正人    :元NTTラーニングシステムズ㈱HA担当部長

 

今回、世の多くの方に、人材(ヒューマン)アセスメントについて、知っていただく必要があるとの考えから、この座談会を企画いたしました。(西山)
本日は皆様ご多忙のところお集まりいただき恐縮です。
まずは司会の私から少しお話ししたいと思います。
NPO法人日本ケースメソッド協会の使命は“ケースメソッドを活用した人材育成”です。
人材(ヒューマン)アセスメントは、組織運営における様々な場面(会議や面接や意思決定、プレゼンテーションなど)をケースで再現して、参加者に実践的な学びを提供するものです。
これは、正にケースメソッドの発展型であると言えます。

座談会には日本ケースメソッド協会の会員の中から、人材アセスメントに様々な形で関わって来られた方々にご登場いただき、人材(ヒューマン)アセスメントについて徹底的に議論をしていただこうと思います。

テーマは【人材アセスメントは「目利き」を超えられるか】です。
この座談会は数回に分けて連載していく予定です。

********************************

(西山)
まずは、NPO法人日本ケースメソッド協会の古澤会長からお話をお願いいたします。

(古澤)
私が研修の専門会社に転職した動機というのは若いころアセスメント研修を受講して、その魅力を知ったことです。
私が入社した当時はアセスメント型の研修は米国のノウハウを導入したばかりで、日本での黎明期でした。
その研修会社自体も創業して間もないころでしたが、創業者の一人である梅島みよという方が米国への視察旅行に行ったとき、このノウハウに目をつけたわけです。
梅島先生は女性研修の草分け的存在の方です。
人材(ヒューマン)アセスメントが今では人事研修関係の部署の方は知らない人がいないといっても良いほどです。
先生は先見の明があったのだと思います。
因みにヒューマン・アセスメントというネーミングもその会社の創業者メンバーが名付けたものです。

(西山)
日本へのアセスメント導入当初はどうだったんでしょうか。

(古澤)
日本で初めてアセスメント型の研修を実施した企業は、私の記憶では「松下電器産業」「大阪ガス」「日本生命」「東京海上火災」「積水化学」など日本を代表するような企業が多かったと思います。

(西山)
それらの企業はどのような目的で実施していたのですか。

(古澤)
それらの企業もたいていそうでしたが初めは能力の選抜型(S型=selection)ではなく、能力開発型(D型=development)でした。
アセスメント型の研修はマネジメントの体験学習そのものなので管理職候補者が管理職になる前のトレーニングとしてまさに打って付けだったわけです。
また、日本企業においては、多くの企業が人事考課制度というものがあり、これは第1次第2次という具合に上司が部下の能力や業績を査定するわけで、管理職の義務・責任において行っています。
言って見れば人事政策の根幹をなすものです。
ですからたかだか2日や3日の短期間の研修結果で管理職を選抜するという米国流の考え方にはやはり抵抗があったのだと思います。
その後しだいにS型の比率が増えて、導入15年頃にはS型とD型の比率が逆転しました。
今はD型の効果も期待しながらS型で実施している企業がほとんどです。

(西山)
なるほど、能力開発(D)型でやっているうちに能力診断の的確さが分かってきたという訳ですね。
ところで水間さんにお聞きしますが早稲田大学の職員研修にアセスメントを取り入れた経緯や目的はどうだったのですか。

(水間)
大学というところは、いわゆる「非営利組織」で「競争」環境が弱い。
もっとも、昨今は少子化で、言ってみれば「マーケットが小さくなっている」ことに加え、国際レベルの競争力が求められるなど、様変わりしていますが。
20数年前、ケースメソッドによる人材アセスメントの研修を初めて取り入れた時には、「大学と企業は違う」という抵抗がありました。
何せ、「大学に経営は必要ない、管理と運営があればそれで十分だ」なんてことがまかり通っていた時代ですから。
こんな昔話をしてもあまり意味がないのですが、導入した当事者としては、「営利組織に学ぶ活性化」という思いは強かったですね。

(西山)
確かに、今は官公庁や自治体でも、人材アセスメントの研修を取り入れてきているようです。
ところで、長島さんが勤めておられた商社はかなり以前から導入されておられるとお聞きしましたが?

(長島)
導入したのは1993年ですから、20年以上になります。
当初はどちらかというとアセスメントという手法が、社内の評価として、本当に使えるかどうかを検証するという意味合いが強かったと思います。
人事部門からすると、それまでの社内での人事考課と照らし合わせて、どんな評価になるのかという点が、とても興味深かったです。
10年ほどそうした検証をしたうえで、当時手掛けていた人事制度の大きな改訂の中核を構成する要件の一つとして、管理職登用の選抜試験となりました。

(古澤)
岡谷鋼機さんの場合は、典型的なS(選抜)型として再スタートして、人事考課とは完全に切り離していましたから、かなりドラステックでした。
ですから、当初は社内から異論を唱える声も多かったですね。
アセスメント結果のフィードバック面談を、人事スタッフ、講師、本人、直属上司の4者で行うなど、地道な努力を重ねて次第に定着した経緯があります。

(西山)
ずいぶんと、ご苦労されたんですね。
ところで、20年以上の時間をかけて検証などをされてきた中で、人材アセスメント手法を活用した人材評価の精度や、研修としての効果性は、率直にどのようにお感じになられていますか。

(長島)
一言でいうと「上司の評価は甘い場合が多い」ということですかね。
いままで人事部門がそう感じても、なかなか反論できるだけの材料がなかったのですが、人材アセスメントという第三者的で公正な評価を得ることで、もうひとつの判断材料になりました。
逆に、それまで全く目立たなかった人がアセスメントで高評価を得て、新たなる人材の発掘に繋がった例もあります。

(西山)
廣瀬さんは長年、人材アセスメント研修を企業に紹介し導入してもらう、いわば“売る立場”として、少しお話ししてもらえませんか。

(廣瀬)
当初は、ヒューマン・アセスメントという言葉自体が浸透しておらず、また日本企業というか日本人気質からか、「ディメンションを基軸とした行動観察から正当な評価できるのか。」など抵抗的な反応が多く、話し合いの土俵にすら上がれなかった記憶があります。
セールス話法が未熟だったかもしれませんが・・・(笑)
HAを売れる営業は花形でしたね。

(西山)
なるほど、大変なご苦労の末、廣瀬さんは人材アセスメントの花形営業になられたのですね。
ところで、顧客である側にいらっしゃられた水間さん、長島さんにお聞きしたいのですが、今後、人材アセスメントを活用した研修に対するご要望やニーズがあれば、いくつかお話を頂きたいのですが。

(水間)
発注側の希望は、「業界」の事情を理解しているかどうか、という点ですね。
それを踏まえてのセールスプロモーションなのかどうかが重要になってくる。
「一般的な話」をしてもらっても、心は動かないし、上に挙げていく場合にも説得力に欠ける。
話したように「うちには関係がないだろう」という空気・風土を突破しなくてはならない。

(長島)
簡易版のインバスケットが欲しいですね。
そういったものがあれば、ぜひ新卒や中途採用の選考過程で使ってみたいと思います。
ただし選考スケジュールを考慮すると、実施時間も1時間以内、また結果のほうも2~3日以内には入手したいというのが要望です。

(廣瀬)
おっしゃる通りだと思います。
大学生に(簡易版のインバスケット等の演習)実施した経験からも非常にいい結果が出ていますね。
受講した学生も「就職試験で大いに役立った。」と感謝の言葉ももらっています。
今後もニーズは高まると実感しています。

(西山)
なるほど、今は顧客にニーズも拡大してきているんですね。一方でそのように人材アセスメントの手法を応用した研修やコンテンツ(インバスケット演習や面接演習、グループ討議演習、プレゼンテーション演習等)の開発も進んできているんですね。
また受講した方からの評判も上々とのことで、自ら体験して、自らを客観的に見る(ビデオ観察など)ことができるアセスメント手法の素晴らしさが証明されたといってもよいのではと感じます。

(水間)
ところで、プロローグのなかでも触れましたが、評価と言えば一般的にはevaluation という概念でしょうが、なぜ敢えてassessmentを使うのでしょうか。

(古澤)
その疑問について、私なりに解釈しているのは一言で言えば「捉える時間の対象」の違いだと思います。
evaluation(査定、考査)は、過去の時間を対象としているのに対して、assessment(診断・評価)が対象としているのは未来です。
両方とも評定するのは現在ですが、対象とする時間の違いと言っても良いのです。

(西山)
対象とする時間が違う?それは一体どういう事でしょうか。

(古澤)
どういう事かと言いますと、evaluationは一般的には入学試験や学力検査、公認会計士や弁護士など各種資格試験や実技試験など全てこれに当てはまります。
これらはこれまで蓄積した知識や技能がどのレベルまで到達したかを審査するものですね。
これに対してアセスメントでは将来どのような能力を発揮できるのかを、顕在化した事実に基づいて評価するのです。
Assessmentは事前評価という意味もあります。
要するに、アセスメントの目的はその人物が将来組織のマネージャーとして必要な管理能力を発揮できるか、自己の職務を遂行できるかを診るのです。
アセスメントの各種演習課題が将来の職務(役職)になりきって演じてもらうために設計されているはそのためです。

(水間)
これは分かりやすいですね。何か、「目からウロコ」という感じです。

(長島)
たしかに上司にありがちなのは、プレイヤーでの評価=マネージャーの適性評価にしてしまうことだと思います。
なかにはスーパー担当者みたいな人もいて、担当者としては抜群の能力を発揮しても、マネージャーとしては正直、適性に欠ける人もいるわけですよね。

(廣瀬)
実は、私は、セールス・マネジャーを10年以上経験しましたが、私自身がセールススキルを前面にマネジメントしていたため、効果的な市場開拓や人の育成は、今一つでしたね。
マネジメントの重要性に気づいたときは、手遅れ状態でした。
今はその経験を活かしていると思いますが・・・

(古澤)
アセスメントの歴史を遡ってみても、もともとは軍隊の将校やスパイ要員を選抜するためのやり方が原型となっていることからもわかりますね。
日本に入ってきた当時は、短期間で管理能力を診ることに抵抗があり、昇格の判定は人事考課のほうに重きを置いていたのですが、多くの企業が次第にアセスメント評定結果のウエイトを高めていきました。
この背景にはアセスメントの信憑性が認められてきただけでなく終身雇用制や年功序列式人事制度が崩れ、企業でも管理職のポストが少なくなったこともあったと思いますね。

(西山)
では、今回はこのくらいで終わりたいと思います。皆様お疲れ様でした。次回またお願いします。

第1回終り

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