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【対談】人材アセスメントは「目利き」を超えられるか(第2回)

投稿日:2018年5月12日 /  記事カテゴリー:コラム

人材アセスメントは、「目利き」を超え(られ)るか(第2回)

 

座談会 人材アセスメントは「目利き」を超えられるか Ⅱ

≪出 席 者≫
西山真一(司会):NPO法人日本ケースメソッド協会理事
古澤 賢    :NPO法人日本ケースメソッド協会会長
水間英光    :元学校法人早稲田大学副総長
長島研二    :元岡谷鋼機㈱人事総務部教育研修担当
廣瀬正人    :元NTTラーニングシステムズ㈱HA担当部長

 

西山:
本日も皆様ご多忙のところお集まりいただき、ありがとうございます。
さて、前回の座談会(第1回目)では、人材アセスメントが日本の企業において導入されてきた歴史や導入当初の苦労話などについてお話しいただきました。また、クライアント企業の立場から、人材アセスメントに対するニーズや要望などを話いただきました。さらに、企業に対して人材アセスメントの研修を提案する営業の立場からの話もしていただきました。
今回は、テーマである「人材アセスメントは「目利き」を超えられるか」について、さらに踏み込んだ話をしていきたいと思います。

まずは、古澤会長にお聞きします。
前回の話の中で、「evaluation(査定、考査)は、過去の時間を対象としているのに対して、assessment(診断・評価)が対象としているのは未来」というお話がありましたが、何か理論的な背景や裏付けはあるのでしょうか。

古澤:
アセスメントという言葉そのものに「ある事象を事前に予測し、客観的に評価すること」という意味があります。例えば環境アセスメントの場合、開発が環境に及ぼす影響の程度や範囲について、事前に予測・評価することですし、リスクアセスメントの場合は、事前に危険度を質的・量的に評 価する手法を言います。
また、科学技術が自然環境や社会に与える影響についての事前の予測・評価するのはテクノロジーアセスメントと言います。最近は製造業でも製品の有用性や便利さだけでなく,廃棄物になったときの処理のしやすさも含めて行われる製品アセスメントが重要視されています。
ご質問の趣旨とちょっと違うかもしれませんが、ついでにここで私が強調しておきたいのは、私企業でも公的機関でも組織の維持・発展にとって最 も大切な“人財”は上手に活用し育てることが肝要だということです。人材アセスメントは、能力を評価するだけでなく、その結果を能力開発に繋げることが可能です。人材アセスメント研修は出来るだけ若い頃に始めて長期的、段階的に何度か実施したいものです。そうすることで組織の人材戦略に資することが出来、同時に結果をフィードバックされた個人にとっても自分自身のキャリア開発に役立てることが出来るのです。

西山:
そうですか、人材アセスメントは人材の発見と同じくらい、人材育成が大事だということですね。
次に、長島さんにうかがいたいのですが、前回、「人材アセスメントの研修を10年ほど検証したうえで、当時手掛けていた人事制度の大きな改訂の中核を構成する要件の一つとして、管理職登用の選抜試験となりました」という旨のお話しがありましたが、これは人材アセスメントで良い評価を得た人材が、ほぼ期待通りの活躍をするという検証ができたということでしょうか。

長島:
100%とは言いませんが、ほぼ一定の相関関係は確認できました。だからこそ昇格に紐付けした本格導入に踏み切れたのだと思います。
これによって、人事を進めるうえで楽になった点が2つあります。
ひとつは年功に縛られず、優秀な若手の登用が可能になったこと。もうひとつは人材アセスメントの基準をクリアーしない限り、どんなに上長の受けが良くてもマネージャーにはなれないという明確な判断基準ができたということです。
これは先ほどのお話でいう「人材の発見」という部分ですが、もうひとつ「人材の育成」という点でも、大きな変化が出てきたと思います。それまでは部下の育成面でも、どちらかというと上長の経験と勘に頼ったような部分が大きかったのですが、上長と本人にしっかりしたフィードバックをすることで、ディメンションごとの強み・弱みがはっきりしたため、その後の日常業務を遂行していくうえで、大きな指標になりました。そしてそのことが、さらなる成長につながるのだという意識改革ができたと思います。

西山:
有難うございました。次に、水間さんにお聞きしたいのですが、
前回、「発注側の希望は、業界の事情を理解しているかどうかという点ですね」とお話がありましたが、もう少し具体的にいうと、どのような対応を欲しいということでしょうか。
例えば、インバスケット演習や、グループ討議などの演習課題を業界の事情に合わして欲しいいうことでしょうか。それとも、能力要件、いわゆるディメンションを業界の事情に合わして欲しいということでしょうか。

水間:
これは、大学という、いわば特殊な世界だからこそのことかもしれません。「大学は(営利)企業と違う」という風土がある中で、起案して上にあげていく場合に、「いろいろな企業などで採用されているようですが、これを大学版として活用することができる例として、こんなことを言ってきています」という説明をしたい、ということなんです。
メーカーもサービス業も金融機関も地方自治体も採用しているが、大学の場合、「(今おかれている経営環境を踏まえて)「こんな風に使っていただけると今後に生きてくると考えますが」とプレゼンされれば心が動きますよね。
続けてよろしいですか。前回、私が“目からうろこ”と言った人材アセスメントの定義に関連することに触れたいんですが。

西山:
どうぞお話しください。

水間:
エヴァリュエーションが、過去あるいは「そこにある事実」の評価であるのに対し、人材アセスメントは、現在から将来までを対象にした評価だという説明だったわけですが、そうすると、いわば「潜在能力」までを見ることになる、とも言えるわけで、ここに大きな特徴がある。
よく、研修の参加者に、「この研修は、皆さんの日常の”仕事の癖、習慣“が反映します」と言っていたんです。生活習慣になぞらえて言えば、生活習慣病検査=人間ドック とも言えるわけで、「この”習慣“を変えない限りリーダーにする訳にはいかないな」とか、「悪い癖が無いので安心ではあるけど、将来を見据えるともう一歩改善して欲しいところもある」とか、ということになると思います。
ちょっと、こじつけが過ぎますかね。長島さんのおっしゃっている「人材の発見」だけでなく「人材の育成」にも生かせた、というのは、「日常の“癖”」を指摘することで、今だけじゃなく今後に向けての育成のテーマが見つかるということだと思うのです。血圧が高い人は、どう生活習慣を変えるかべきかと同じ、ではありませんかね

長島:
私が所属していた会社では、人材アセスメントで不合格になった場合でも、上長の推薦があれば、翌年以降に再チャレンジできる制度だったのですが、確かに複数回チャレンジしてもその人の持つディメンションの特徴はあまり変わらなかったという印象が強いですね。

水間:
「生活改善」は難しいということですね。長島さんのところと同じように私のところでも、人材アセスメントの結果、登用から漏れた人間に3年後あたりに“リベンジ”の機会を設定したんですが、際立った「改善」は見られませんでした。
実は、ケースメソッド協会サイドは過去の経験からそれは承知のことで、“素人”のわれわれは、「余計な」予算を使わされた、ということかもしれないと“反省”しているんですけど。これは冗談としても、なかなか「生活改善」が望めないとなると、選抜機能としての「人材発掘」は達成できても、「人材育成」のほうは、人事サイドとしては難しいものがありますよね。
ディメンションをターゲットにしたフォロー研修があるといいんですけどね。協会で開発しませんか。

古澤:
実は、今の水間さんの言われたディメンション別のフォロー研修をやったことがあります。ただ、集合研修の限界と言っても良いかもしれませんが、集団を対象とする能力開発プログラムは、当事者意識がどうしても薄れてしまうのは否めません。
その点を十分考慮してプログラムを組む必要がありますし、自分のためだから、とそれなりのモチベーションをもって参加しないと効果は高まりません。

水間:
人材アセスメント研修を受けたあとに、デメンションベースで明確な課題を与えて、フォロー研修への動機付けにすることが重要だということですね。ただ、時間を置いた後の同じようなプログラムへの単なる再チャレンジだと、結果は変わらないということなんでしょうね。

長島:
フォロー研修は実施した経験はありませんが、確かに受講者の一部からはそうした要望もありました。ただ選抜型として実施している場合、その辺りの兼ね合いは難しいかなとも思います。会社のスタンスとしては、「きっちりフィードバックもしたのだから、あとは自力で這い上がってこい」ということですかね。

水間:
再チャレンジで、課題のディメンションに進歩が見られ前回よりスコアが高くなって「登用」レベルに達した場合には、リベンジを果たして昇格させるということでいいと思いますが、現実にはそこまで“面倒見切れない”ということになりますかね。

廣瀬:
ここ数年ですが、選抜型の人材アセスメントのフォロー研修が増えてきています。私が担当する企業4社はかなり本格的です。人材アセスメントでは、気づきが主体であるためスキルアップは不可能に近い。そのための人材アセスメント研修で作成した、自己能力開発計画にのっとりフォローアップ研修を計画し実施しています。

古澤:
そうですね、廣瀬さんの言われるように、人材アセスメントを人材の発見で留めるのではなく、育成に繋げようとする傾向は今後ますます強まるでしょうね。
それに加えてD型にしてもS型にしても、最近の人材アセスメント研修はコースの最後に、講師との一対一の面談を行うケースが増えてきていると思います。そこではディメンションの強みと弱み(啓発課題)を演習の状況を具体的に示しながらフィードバックするので本人の納得感も高いようです。それを踏まえて自己啓発計画書を記入すると精度も高くなります。研修終了後しばらくしてから本人宛にフィードバックを文章化したレポートが手元に届くというプロセスが一般的です。
ただ、面談で話し合った時は大いに触発されても、職場に戻ってしばらく時間が経過すると、喉元過ぎればなんとやらで、持続するのは難しい面があるのは否めません。そのような問題点を解決するようなプログラムの開発とかその後にモチベーションが持続するような工夫をする必要はあると思います。

西山:
古澤さんの場合、そのために工夫したことはありますか。

古澤:
私の場合は本人の触発された気持ちができるだけ持続するように研修が終わったあと、本人の能力開発の実践をできるだけフォロワーするようにしました。
どういうことかと言いますと、本人が作成する自己啓発計画書には、計画を立てるときはこうする、問題が起きた時はこう、今やっているプロジェクトをこのような観点から見直すなど、ディメンションの開発を主眼に、仕事につながるような具体的な行動を記述させました。抽象的なスローガンを掲げてもお題目に終わってしまいますから、それが肝心です。
それをもとに上司と面談し、3ヵ月や4ヵ月などの期間を設けて職場で実践してもらいます。中間では上司と面談して進捗状況を確認することも必要です。実践期間が終了した時点では、成果がどうだったかを振り返ってもらう訳です。その結果は上司経由で私にも届くようにして、私からは成果へのコメントや助言をつけて返却します。こうするだけでも結構皆さん真剣に職場実践をしてくれます。実践を継続するように激励する意味あいもありますが、努力してやったことを認めてもらえるという心理的な効果は大きいと思います。研修を一過性で終わらせない方法としては、それなりの効果はあると思います。

西山:
人材アセスメントの研修効果を高めるために、色々な工夫をされているんですね。
次に、廣瀬さんにお聞きします。
廣瀬さんは、これまで多くのクライアント企業の人事担当者様や経営幹部の方々から、人材アセスメントに関する評価を受けてきたと思いますが、人材アセスメントを活用したプログラムの人材を見極める「目利き力」に関する印象に残った顧客の言葉はありますか。あれば、お話しいただけますでしょうか。

廣瀬:
そうですね。印象的な例をご紹介しましょう。
「目利き」とは、体裁的には理にかなっていますが、実際には上長以上の方の好き嫌い人事がかなり占めていたようですね。
昨年から人事制度改定により人材アセスメントを本格導入した企業からは「今までは人事考課・筆記試験・人事面接で昇格決定を行ってきましたが、やはり、かなりのウエイトで上長等の主観が入った結果となっていました。筆記試験は暗記・・・。筆記試験を人材アセスメントに変更したことで、マネジメント能力が明確に判定できました。導入したことに非常に満足しています。そして、何よりも受講者本人の納得性がたいへん高いことがいえます。本人の納得性が高いので、現場の上長から結果に対するクレームがほとんどなく驚いています。」と言われました。

西山:
ありがとうございます。なかなか興味深いお話でした。
廣瀬さんの話から水間さんのご意見は何かありますか。

水間:
さきほどの“習慣”の評価ということとも関連しますが、何と言ってもケースメソッド協会の人材アセスメントプログラムの場合「行動」をベースにしているということです。日常の行動の“癖”がIB(インバスケット演習)であれGD(グループディスカッション)であれ、IS(面接演習)であれ、「再現」されることで、事実ベース(に近い形)で、判断材料が生まれるという点こそ、もっとも大きな特徴ではないですかね。
人事考課・人事面接など上司・部下というダイレクトに人間が介在する「評価」では、好き嫌いだけじゃなく、さまざまなバイアスがかかることは避けられません。そこに筆記試験を加えても、信頼性が一気に高まるとは思えませんよね。
その点、行動=事実ベースの評価結果は、説得力・納得力が高く、「目利き」を超えることができるのではないか、というのが僕の結論なんです。結論がちょっと早すぎますか?

西山:
そんなことはありません。実際の組織の中でのご感想ですので、説得力があります。
水間さんのご意見に関連して長島さんのご意見はありますか。

長島:
先ほども述べましたが、再チャレンジ組のなかであまり変化がない、もっと言えば成長していない人というのは、日常業務のなかで意識をしてこなかった人だと思います。いくらマネジメントに関する本を読んで勉強や対策をしたところで、日常業務を通して実践的に行動していないと、本当の意味でマネジメント能力が身に付いていないので、研修全体を通してみると、一本筋が通っていないという結果になるのだと思います。

西山:
なるほど。
古澤さんは、長年、人材アセスメントのアドミニストレーターをやってこられた立場から何かありますか。

古澤:
研修で一般的に使われているアセスメント方式に関して言いますと、2日間、3日間という日程の違いはあるとして、インバスケット演習、グループ討議演習、面接演習などを実施するのが基本となっていて、研修会社各社のプログラム自体は大差ありません。と言いますのは人材アセスメントの三要素としての、演習課題、ディメンション、アセッサーが揃っていれば人材アセスメントは成立するからです。
ただ、揃っているからと言って、その人材アセスメントプログラムを無条件に信用していいかとなると話は別です。確かにマネジメントの能力開発型(D型=development)に使用する場合はシミュレーションの実習の効果は抜群です。しかし問題は能力評価を基本とする選抜型(S型=selection)を目的とする、つまり昇格・昇進など人事考課に直結する場合です。その人の人生にも関わることなので、人材アセスメントのS型を人事政策に採用するかどうかの決定は慎重に行うことが重要になります。

西山:
そんなに良いプログラムなら、わが社も採用してみるか、と人材アセスメントを安易に導入してはいけないということですね。(笑)

古澤:
そうです、一時ブームになった成果主義ですが、本当の趣旨をあまり理解せずに安易に導入して失敗した例が結構ありましたね。急いてはことを仕損じる、です。
人材アセスメントの選抜型の場合は、まずそれを人事施策の一環として導入する必要性がどの程度あるのかの検討があるべきです。現状では採用する条件が揃っているとか人事政策上必要性が高いという段階で初めて採用となります。その場合は以下のような点を考慮する必要があります。この点は先ほど長島さんも触れておられました。
第一は、ディメンション設計です。ターゲットとなる職位(役職)にマッチしているものを採用する必要があります。
第二は演習課題の選定です。能力判定のツールとして適切かの検討が欠かせません。
そして第三はアドミニストレーター、アセッサーの力量が信頼に足るかです。これは研修会社の信頼性と言ってもいいです。
第四は人材アセスメントの能力評価の位置づけが明確になっているかです。
要は人事考課との関連性が組織内で周知徹底されているか、こういったことを十分検討しておくことが導入の大前提です。

西山:
なるほど。そうしますと選抜型(S型=selection)の人材アセスメントは評価の信頼性を確保するのが大事だという事ですね。

古澤:
その通りです。安易に導入しても成功しないのは自明の理です。その結果信頼を落としてアンチアセスメント派を作ってしまうという結果になりかねません。反対の声が強くなって中止となった例もあります。
長島さんの会社は長島さんも言っておられたように初めは能力開発型(D型=development)からスタートして、その後、選抜型(S型=selection)に転換しました。10年と言うのはレアケースとしてもD型から始めてS型の比率を段階的に上げていく例が一般的だと思います。
いずれにしてもD型であれS型であれ、結果のフィードバックをうまくやれば当人の能力開発に繋がるのは確かです。フィードバックは本人へのレポートで済ませるか、面談までやるか、また集めてフォロー研修をするか、会社によって様々なやり方があるわけです。
水間さんが言われたように、きちっと強み弱みに沿ったフォロー研修ができれば一番よいのですが…。
現職の管理職層を対象にした棚卸アセスメント(I型=inventory)なるものもあります。企業の合併に伴う人事制度の再構築や人事制度そのものの見直しなどの場合はこのI型と呼んでいます。

西山:
一口に人材アセスメントと言っても様々なバリエーションがあるのですね。

廣瀬:
選抜・育成・診断という目的は当然ながら、企業ごとにそれぞれの思い入れや事情もあり、我々もそれに合わせたカリキュラムを作成し実施しています。日程・予算・時期・対象者・レベル・・・等、ニーズに合わせた対応が求められています。私自身も「10パターン以上」の進め方を体験していますね。

西山:
ところで、人材アセスメントに関する課題とか問題点とかはどのようなことがありますか。そのあたりも話し合ってみる必要があると思うのですが…。

古澤:
人材アセスメントに関する問題点や課題といったものはいろいろあります。それについては私なりに認識していることがありますのでそのあたりは次回にでもお話ししたいと思います。

西山:
分かりました、3回目は人材アセスメントをいろいろな角度から見て皆さんが感じている課題を出しあって議論を深めていきたいと思いますのでよろしくお願いします。

皆さん今日はお忙しい中、有難うございました。次回またいろいろお話を聞かせていただきたいと思います。

第2回 終り

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