研修内製化のすすめ(1)
本稿の目的
本稿は、ケース(事例)を使った研修内製化のすすめ方について解説するものです。平成26年3月6日(木)に、労政時報カレッジ(労務行政研究所主催)で「研修の内製化の5つのチェックポイントと4つの勘所」という半日(3時間)セミナーを開催しました。本稿は、そこに参加された受講者の方に対するフォローと、この分野にご関心のある一般ネット閲覧者への情報提供を目的としています。
研修内製化をめぐる議論を整理する
研修の内製化を試みる企業が増えています。よく聞くのは、自社の社員を講師にして、今まで外部の研修会社に支払ってきた研修費を削減するという考え方です。このような企業が増えると研修会社としては困るので、「教育研修費を安易に削減することは、企業の競争力を損なうことになる」とか、「教育は投資であって、コストと捉えること自体が間違っている」「素人の講師では、十分な研修効果が得られない」といった反論が行われています。
それでも研修内製化を試みる企業に対しては、「せめて講師の養成は、当社でおまかせ下さい」「研修テキスト作成は、当社にアウトソーシングして下さい」といったアプローチに切り替えて、少しでも売上を確保しようとしているのが現状です。
しかし研修内製化といっても、全ての研修を内製化することは不可能ですし、内製化する方が逆にコスト高となり、内製化する意味が無くなってしまう場合もあります。ここでは、少しクールに研修内製化をめぐる議論を整理したいと思います。
研修コストの見直し・合理化
研修内製化の是非を議論する前に、何のための研修内製化なのかを整理しておきたいと思います。研修内製化の目的は、1つは研修コストの削減・合理化にあることは言うまでもありません。大企業であれば年間1億円ほどの研修費を使っているところもあるでしょう。
研修コストもコストの1つであるので、企業の立場からは、当然合理化の対象となります。「教育は投資であって、コストと捉えること自体が間違っている」という主張は、正しいように聞こえますが、正しくは「教育は投資であるがゆえに、投資対効果(ROI)を求めなければならない。投資対効果を高めるために、教育コストの中身を絶えず見直さなければならない」となります。
一方、「教育研修費を安易に削減することは、企業の競争力を損なうことになる」という主張は、確かに一理あります。日本の社会人教育に対する支出(民間支出・公的支出)が欧米に比べて少なく、修士や博士といった学位取得者の割合も低いという事実は、教育関係者の中で、しばしば言及されます。しかし、そうだからといって、現状の教育研修コストの構造を見直して、より効果が出るように合理化することを否定する理由とはなりません。
教育研修コスト見直しの一環として、研修の内製化を検討することは選択肢の1つとして考慮に値すると思います。検討の結果、ある研修については内製化が合理的だと判断されるかもしれませんし、ある研修については、外部の研修会社に今まで通り発注することが最適な方法だと再確認されることもあるでしょう。
内製化した方が効果的だから内製化する
企業のことを良く理解していない外部の研修講師に依頼するよりも、内製化する方がより効果が期待できるからというのが、研修を内製化する目的の2つ目です。企業の風土や歴史を熟知し、社内で多様な仕事を経験してきた社内講師の語りは、外部のいかなる講師の話よりも、説得力を持って響いてくることがあります。
「皆さんが入社する前の話ですが、実は当社でも、このケースと同じような事例がありました。当時私はまだ30代の前半で、・・・・・・・」と語る先輩のエピソードに、思わず前に身を乗り出して聞いてしまった経験は、皆さんにもあると思います。
よく「外部の人に言ってもらった方が、説得力が出る。会社の人間が話をしても、何を言っているのだと思われるだけ」と自身や自社を卑下する方に出会いますが、これもおかしなことです。外部の人間に安易に依存することは、主体性が無いだけでなく、職務怠慢です。自分の言葉で、熱く語ることが第一ではないでしょうか。
実は、内製化することで効果が出る方法の1つが、自社オリジナルケース(事例)を使ったケースメソッド方式の研修です。本稿では、自社オリジナル・ケースを使った研修内製化のすすめ方を次回以降で、順次解説していきます。
内製化になじむ研修とは
知識を伝える研修は、基本的に内製化になじみます。たとえば新入社員研修は、社会人として身につけるべき知識やマナーの習得が目的ですので、研修会社に提供してもらっていた研修を参考に、自社でアレンジして内製化することは容易です。最近は新入社員教育を内製化している会社が増えているようですが、内製化になじむからです。ただし大量の新入社員を採用し、新入社員教育を同時に実施する場合は、一時に多数の社内講師を手配しなければならないため、内製化は難しいかもしれません。
あと、コンプライアンス研修やメンタルヘルス研修も比較的内製化になじむと思います。コンプライアンス研修やメンタルヘルス研修は、今や実施することが社会的にもMUST(必須)となっているもので、どこの企業でも「やらざるを得ない」研修となっています。これらの研修は、基本的に全従業員を対象に行うので、必然的に実施回数も多くなり、企業としてはなるべく内製化して、研修コストを抑えたいと考えると思います。
コンプライアンス研修やメンタルヘルス研修の研修内容は、知識教育や事例紹介が中心で、講師のスキルがそれほど求められないことも内製化になじむ理由です。もちろん専門家に依頼し、話術のたけた講師にお願いするのがベストですが、すべての研修をプロに依頼する必要はないと思います。
たとえば各事業所の実務担当者を集めて、プロの講師に研修を実施してもらい、後は、プロの講師の資料や講師が紹介した事例をもとに、各担当者がそれぞれの事業所に戻り、講師となってセミナーを実施するという方法もあります。「教える者が一番学ぶ」という言葉もありますが、実務担当者自らが講師となることで、担当者の知識とスキルは間違いなく上がります。
次回「研修内製化のすすめ(2)」は、そもそも何のために研修を行うのか、研修の効果測定はどうするのかといった、根本問題に答えていきます。ご期待ください。
本稿執筆者が管理職研修の副読本として書き上げた「人事が伝える労務管理の基本/現場の管理・指導・育成200のルール」が好評です。管理職に必須の法令知識とマネジメントや部下指導の実践知識を、全項目図解入りで解説しています。(了)
会員 本田和盛