後を絶たないコンプライアンス違反
最近も、ホテルや飲食店の偽装表示、ブラック企業と呼ばれる企業の労務問題、大手銀行の反社会勢力への融資問題、鉄道会社の危険性の放置など、企業のコンプライアンスの違反が後を絶ちません。
日本では、1990年代からコンプライアンスの遵守が叫ばれ初め、2000年代に入りコンプライアンスというキーワードは一般化されてきました。
そして、多くの企業は企業統治としてコンプライアンス遵守の経営をすることを、ホームページ等を通じて表明しその実践を誓っています。
しかし、企業や組織のコンプライアンスの違反は後を絶ちません。
食品の偽装表示で言えば、大手食肉会社や老舗料亭がかつて大きなニュースになりました。老舗料亭は店じまいに追い込まれました。また、反社会勢力の問題では、大手証券会社や大手銀行が90年代に総会屋への利益供与事件、複数の大手飲食チェーンで労務問題が発生しました。さらに危険性の放置では自動車会社のリコール問題が過去に幾多もありました。
このように過去に多くの教訓があるにも係わらず、コンプライアンス違反は繰り返されています。
その背景として、以下のようなことが考えられます。
コンプライアンスや倫理に対する社会の意識・関心の高まり
コンプライアンスという言葉自体が一般化し、多くの国民の関心が高まってきています。
特に2000年代以降、消費者直結の不祥事が多発し、消費者や会社で働く従業員の意識や関心が高まってきています。
マスコミの取り上げ方
多くの国民の関心が高まっている中で、マスコミも取材に熱を入れますし、大々的に報道を行なうようになってきています。
インターネットの普及
以前であれば、ある会社や組織の不正を訴えたい場合、わざわざ新聞会社などのマスコミまで足を運ぶなど、相当の労力・手間暇がかかりました。また、そうした苦労も徒労に終わることも多かったと思います。
しかし、今はインターネットの発達により、そうした情報発信を誰でも容易にすることができる社会になりました。
結果として、企業や組織の不正や問題が世にどんどん出るようになって来ています。
内部告発
公益通報者保護法が平成18年4月1日から施行されました。これにより、一定の要件を満たせば内部通報をした労働者を保護する仕組みができました。
これも企業のコンプライアンス違反の情報が、世の中に出やすくなる一つの要因になっています。
人間の弱さ
これは、永遠のテーマなのですが、やはり人間は弱いと言うことです。
前述したように、過去に幾多の教訓が有り、また企業としてもコンプライアンス経営の実践を誓っているにもかかわらず、こうした違反が繰り返されるのは、「自分に不利益が及ぶことはいやだ!」という人間の弱さが原因だと思います。
コンプライアンスの違反や違反の放置は、結局は人間がしています。
企業や組織には、目には見えない風土という強烈な力が働いています。具体的にいうと、前例や慣例の踏襲、現状維持、先送り、リスク回避等の意識や集団のコンセンサスです。これに多くの人間は勝てずに飲み込まれていきます。
例えば、自分がある役職に就いたときに、目の前にコンプライアンス違反の問題が出てきた。しかも、その組織では既に10年以上前から慣例として、そのコンプライアンス違反が続いている。さらに、その違反を止めれば組織にとって大きなマイナス効果をもたらす。といった時に、どう対処できるかです。
大半の人間は、「自分の時は現状維持で」、「余計なことはせずにおこう」、「何とか先送りにできないか」、「穏便に済まないか」、「できれば蓋をしてしまえ」などと考えてしまうと思います。
やはり、現状変更や改革するには相当の勇気やエネルギーが必要です。一方で大きなデメリットも生じます。また、周囲も賛成しないかも知れません。
結果として、多くの組織人は、この目には見えない風土という強烈な力に敗れ、改革を断念したり、コンプライアンス違反を見過ごしたりします。
このように企業や組織のコンプライアンス違反は、様々な要因から繰り返し発生していますが、最後の人間の弱さを克服しない限り、今後もなくなっては行かないのではないかと考えます。
非常に残念ですが。(以上)
理事 西山
コンプライアンスのあり方を理解することに大変に役立つ記事と思いました。社会の見る目が厳しくなった、告発しやすくなったという『外部的な要因』と「人間の弱さ」(印象的な言葉です)という『内部的な要因』への両面への取り組みが大切であることを認識しました。