テーマ : コンプライアンス
三友重工業(株)輸出第二課長の安部は、突然監査室から呼び出しを受けた。1年前に、ある国へディーゼル発電プラントを輸出したが、現地での据え付け工事を発注した業者への支払い額が法外であり、発注手続きも不透明である、というのである。安部はやむを得なかった現地の事情を説明するが、監査室の藤本主幹は聞き入れず、社内規律委員会へ付議すると言う。安部にとってはこれまで不問に付されてきた案件であった。最近不祥事が相次いだため、新しく登場した社長がコンプライアンスの重視を打ち出し、監査室に藤本ほか何人かの俊英を他部署から引き抜き強化したところで、藤本主幹にとってはこれが監査室での初仕事であった。安部は規律委員会のことを思うと憂うつになった。委員たちは厳しい受注環境を知らないし、知ろうともしないのだ。きれいごとを並べてメシが食えるほどこの業界は甘くない。会社が潰れてもよいのか。