この４月に渥美は主任に昇格し、人事課から埼玉営業所に異動になった。赴任した初日、スタッフに紹介されたが、一人、事務アルバイトの井矢だけは、目が合うのを避けるようにしていた。いよいよ、渥美が担当主任として業務についた日、誰もいなかったので電話を取ったが、要領を得ずメモだけとって、戻ってきた井矢に取り次ごうとした。しかし、「わからないなら電話に出ないでいい」と言われてしまい、それからの態度も悪かった。たまりかね、所長と係長に、「井矢さんに辞めてもらいたい」と話すと、「君よりも貢献しているから辞めさせるな。君は主任なんだから、アルバイトごときに振り回されるな」と言われてしまった。渥美は、自分で何とかしようと考え直してみたが、滅入る気持ちはどうしようもなかった。